| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-03 (Oral presentation)

表現型可塑性と生態-適応フィードバック:細菌の可塑的防衛と細菌ー繊毛虫系の個体群動態

*吉田丈人,鈴木健大,山内悠司(東京大,総合文化)

環境の変化に応じて表現型を変える表現型可塑性は、生物の適応メカニズムとしてよく知られている。捕食者に曝された餌生物は、可塑的に防衛形質を誘導させて被食のリスクを下げることがある。一方、捕食者がいないときには、その維持にコストがかかる防衛形質をもたない。このような可塑的防衛は、捕食–被食の相互作用を改変し、捕食者−被食者系の個体群動態にも影響すると考えられるが、その実証例はまだ少ない。

本研究は、細菌と繊毛虫からなる捕食者—被食者系において、細菌の可塑的防衛の発現とその個体群動態への影響を明らかにすることを目的に、ケモスタットによるミクロコズム実験と数理モデルによる解析を組み合わせて実施した。細菌のFlectobacillusは、繊毛虫のTetrahymenaから放出される化学シグナルに反応して、小さな桿状の細胞から大きなフィラメント状の細胞に形態を変えることで、繊毛虫からの捕食を回避する。細菌と繊毛虫を一緒にミクロコズムで培養すると、繊毛虫の個体数変動に応じて細菌のサイズ組成が大きく変化し、最終的には、フィラメント状の細菌が卓越した後に繊毛虫が絶滅した。数理モデルによる実験データの再現により、細菌の可塑的な形態変化が繊毛虫密度に対して非常に敏感であることがわかった。また、フィラメント状の細菌は繊毛虫にほとんど食べられず、効率的な防衛をしていたことが示唆された。さらに、この効率的な防衛は捕食–被食の相互作用を弱めることで、いわゆる富栄養化のパラドックスを解消する効果をもっているが、ミクロコズム実験で設定した栄養度では、被食者の過度の防衛が捕食者の絶滅を招いたことが示唆された。これらの結果は、表現型可塑性が生態−適応フィードバックを通して個体群動態と密接に関係することを示している。


日本生態学会