| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) E2-09 (Oral presentation)
1つの祖先種から多様な生態や表現型を持つ一連の種が急速に生み出される進化過程を「適応放散」と言う。適応放散は、他種に利用されていない新しい資源や環境が利用可能になった際に誘導される。適応放散の例は、ダーウィンフィンチやアノールトカゲなど枚挙に暇がないが、一方で新しい資源や環境に暴露された際に、全ての生物種が適応放散するわけではない。このような適応放散の潜在能力の違いは、その種が適応放散より前に、新しい資源をより効率的に利用できる鍵となる特性を既に保持しているためであると考えられるが、その実体や遺伝的基盤の理解は進んでいない。そこで、私たちはイトヨの淡水域進出に注目し、その潜在能力を規定する遺伝基盤を解析している。イトヨは、祖先的な海型が淡水域へ進出し、適応放散を遂げている。海型イトヨは、遺伝的に分化した太平洋型と日本海型に分けられる。これら海型イトヨと各地の淡水型イトヨを含む系統解析を行うと、全ての淡水型が太平洋型に由来することが知られる。つまり、太平洋型と日本海型で、淡水域に進出する潜在性に違いがあると考えられる。この鍵となると考えられたのが、幼魚期の致死率である。淡水餌で飼育すると、日本海型は受精後40日程から急激に死亡率が上昇する。更に、この死亡率の上昇は、海産餌の給餌で回復した。一般的に、必須脂肪酸の欠乏は幼魚の致死率を上昇させる。特にドコサヘキサエン酸(DHA)は海産餌に多く含まれる一方、淡水餌には含まれないため、淡水魚は独自のDHA合成経路を持つことが知られる。そこで、淡水餌で飼育した日本海型と太平洋型の脂肪酸含有量を解析すると、太平洋型はDHAを多く含有する一方、日本海型ではDHA含有量が著しく低かった。これは、太平洋型は日本海型に比べて高いDHA合成能を持つことを示している。本発表では、この異なるDHA合成能に関わる酵素群の発現・機能解析について報告する。