| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-08 (Oral presentation)

サケ稚魚放流が河川生態系に与える影響

*長谷川功(水研セ・北水研),太田民久(北大・苫小牧研究林)

環境省が提唱する「生物多様性国家戦略」にもあるように、近年では水産業に対しても、生物多様性保全への配慮が強く求められている。さけますのふ化放流事業に対しては、種の特性と遺伝的多様性を維持するために野生魚の保全、活用及び河川を中心とした生態系全体の保全が求められている。近年、遺伝学の急速な発展に伴い、前者に関する研究成果はさかんに発表されるようになった。しかし、後者のふ化放流事業が生態系に与える影響については知見が十分でない。そこで、演者らはサケ稚魚放流が底生生物、藻類、そして同一ギルドにあるサクラマス稚魚へ与える影響を網羅的に調べるために野外調査を行った。

調査は、2012年に北海道千歳市を流れるママチ川で行った。この年、ママチ川では3月中旬に約300万匹のサケ稚魚が放流された。放流地点より下流側を放流の影響が有る区、上流側を影響が無い区としてそれぞれ4つの調査定点を設けた。そして、各定点で放流実施前から定期的に底生生物、藻類、胃内容物を採取するためのサクラマス稚魚の採集を行った。底生生物と胃内容物に含まれる生物ついては、可能な限り細かい分類群まで同定した。また、それぞれ個体数と体サイズの指標として頭幅を測定した。藻類バイオマスについては、クロロフィルa量で評価した。

底生生物のサンプルは現在も解析中である。サクラマスの胃充満度は、放流の影響が有る区で、放流後に著しく低下した。これは、サクラマスが捕食する餌生物の数が減少したためではなく、餌生物の小型化に起因すると考えられた。藻類バイオマスについては、放流の影響が有る区と無い区で大きな違いは認められなかった。主要な植食者であるヤマトビケラはサケやサクラマスの餌としてほとんど利用されなかったためであろう。


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