| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) H1-15 (Oral presentation)
サンゴ礁生態系では環境悪化による生物多様性の減少が進んでおり,生物群集を維持するメカニズムの解明が急務とされている.近年になって,分類学上の種多様性に加えて,構成種の機能的多様性を評価することも重要視されてきた.本研究では,機能群(生態学的機能が類似した種の集合体)ごとに種多様性に影響を及ぼす環境因子を明らかにすることで,群集が成立するメカニズムを解明することを目的とした.2011年夏季,沖縄本島における36礁斜面,各3トランセクト(計108本)で潜水調査を行った.トランセクト(20×2m)内に現れた魚類を記録し,魚種を食性に基づいて6つの機能群に分類した.また,多数の環境因子も同時に定量的に調査した.一般化線形混合モデルを用いたモデル選択を行い,環境変数と群集全体および各機能群の種数の関係性を比較した.その結果,群集全体と藻食魚類・プランクトン食魚類は岩盤率と正の関係を,群集全体と雑食魚類・ポリプ食魚類・甲殻類食魚類は流速と負の関係を,肉食魚類は枝状サンゴ被度と負の関係を,それぞれ特に強く示した.これらの結果について,小型藻類やプランクトンは岩盤質の環境により多く集まるので,藻類食魚類・プランクトン食魚類は餌を求めて岩盤質環境に偏って出現することが推察される.また,小型種を多く含む雑食魚類・ポリプ食魚類・甲殻類食魚類は遊泳の際のエネルギーコストを節約するために,流れが穏やかな環境に多く出現することが考えられる.肉食魚類については,餌となる小魚が避難場所として利用する枝サンゴが少ない環境に有意に出現することが推察される.以上のように,ほとんどの機能群の種数が岩盤率もしくは流速に偏って影響を受けることによって,群集全体に対しても岩盤率と流速が強く作用すると解釈できる.