| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-038 (Poster presentation)
はじめに:ヨシは,ストレス耐性と高い空間占有能力を兼ね備える植物で,クローン形成による成長と繁殖がそれを可能にすると考えられる。ヨシの生活史には,地下茎を伸長し相互に連結したクローンを増やす段階と,地下茎が分断しクローンを分裂させる段階がある。それぞれの効果は相補的であると考えられ,ヨシはこれらを環境や成育段階に応じて使い分けて,広範な環境において適応度を高めることが予想される。本研究では,現地ヨシ個体群に対する操作実験を行い,季節(生育段階及び環境)に応じたクローン間の統合程度の差異の検証を行った。
調査地:千葉県木更津市小櫃川河口干潟
材料及び方法:対象地域のヨシ個体群を用いて地下茎切断実験を実施した。実験では,半径1mの半円形である地下茎切断処理区と無処理区をそれぞれ7区設け,地上桿の消長及び成長動態のモニタリングを3ヶ月間実施後,調査区内の地下部を全て回収した。この操作を,生育期間中,4月,6月,8月の異なる時期から行った。得られたデータを基に,切断処理の効果を無処理区における成長や構造との比較から評価した。
結果及び考察:地下部では6月の切断処理により,当年生で水平方向に拡大する地下茎の長さと数が無処理区に比べて有意に減少したが,地下茎の腋芽数などでは切断処理の効果は確認されなかった。新規地上桿の出現は,4月及び6月の切断処理で,無処理区に比べて有意に減少したが,8月の切断では,無処理区に比べて有意に増加した。同様な傾向は新規地上桿の高さでも確認された。地上桿の死亡率で,4月,6月の切断処理では効果は認められなかったが,8月の処理では無処理区に比べて有意に低下した。以上よりクローン間の統合の重要性は成長期間を通じて変化する傾向があり,環境ストレスや生育段階に応じた複雑なクローン制御システムの存在が示唆された。