| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-039 (Poster presentation)

ゲノムワイドSNP情報から生育環境を読み解く~ハクサンハタザオの標高適応を例に~

*久保田渉誠,岩崎貴也(東大・院・総合文化),永野惇(京大・生態研),花田耕介(九州工大,理研CSRS),彦坂幸毅(東北大・院・生命),伊藤元己,森長真一(東大・院・総合文化)

植物は多様な環境に適した形質を進化させており、その環境適応機構を明らかにすることは生態学のみならず、生物科学全体の発展に貢献すると考えられる。ハクサンハタザオはシロイヌナズナに最も近縁な野生植物であるのに加え、多様な自然環境に集団を確立していることから上記の課題を探求する上で有用な研究対象と言える。本研究では標高差に着目し、ゲノムワイドな一塩基多型(SNP)解析から標高適応に関与する遺伝子を探索すると同時に、自然選択を促す環境要因について推定することを試みた。

伊吹山と藤原岳の異なる2つの山において、それぞれ低標高から高標高までの複数集団を対象に次世代シーケンサーで全ゲノム解析を行った。得られた52万SNPの中から、(1)低―高標高集団間で分化し、(2)標高に沿って対立遺伝子頻度が変化し、(3)高標高集団に特異的な対立遺伝子を示すSNPが連続して含まれる連鎖領域を抽出した。さらに、シロイヌナズナで蓄積されたGene Ontologyの情報から、どのような機能または環境要因に関連した遺伝子が有意に抽出されたか解析することで、標高適応を促した自然選択を推定した。一連の解析から、トライコームの発達やDNA損傷に対する応答など、本種において標高間での差異が報告されている形質への自然選択が、両山において検出された。さらに、それぞれの山では、凍結への応答、赤色・遠赤色光への応答、重金属への応答など、これまで標高間での比較検討が十分にされてこなかった環境要因による自然選択も示唆された。網羅的なゲノム解析から、これまで見落とされていた生育環境情報も検出可能になると考えられる。


日本生態学会