| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-044 (Poster presentation)
ラン科植物は非常に小さい種子を広範囲に散布する能力があると考えられている一方,発芽・定着においては土壌条件や共生菌などの微環境の影響を強く受けるため,多くの種では個体の分布は限られている.本研究では,日本国内の落葉広葉樹林床に分布し,近年個体数が減少しているキンラン(Cephalanthera falcata)およびササバギンラン(C. longibracteata)の近縁種2種を対象に,空間的な個体群構造・遺伝構造を比較し,2種の個体群動態に関する考察を行うことを目的とした.
調査は群馬県前橋市の緑地で実施した.アカマツ・コナラを主体とする約3haの樹林地全体を踏査して,キンラン・ササバギンランあわせて約2,600個体の個体位置を計測した.ペア相関関数を用いて2種の分布を比較した結果,いずれの種もおよそ5-10m以内の範囲で強い集中分布(パッチ)を形成することが明らかになった.さらに,クロスペア相関関数によって2種の分布の相互関係を検討した結果,およそ5-10m以内の範囲ではキンラン・ササバギンランの個体は排他的に分布する傾向があることが分かった.同様にパッチを単位として空間分布を解析した結果,キンラン・ササバギンランのパッチはいずれも5-30mにかけて集中分布するものの,2種のパッチ同士は互いにほぼランダムに分布していることが明らかになった.これらの結果から本調査地では,キンラン・ササバギンランは5-10mの範囲で排他的なパッチを形成するものの,10m以上の範囲では両種とも似たような環境条件に生育することが示唆された.
加えて,高速シーケンサーを用いてキンラン・ササバギンランの遺伝子配列を取得し,マイクロサテライトマーカーの開発を試み,空間的な遺伝構造を解析した結果を報告する.