| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-094 (Poster presentation)
クロボ菌(糸状菌)の感染により黒穂病を発症した植物では、葯での胞子形成と柱頭の変形が起こり、有性繁殖が不能になる。クロボ菌の宿主となる植物種の多くは有性繁殖と栄養繁殖の両方を行う多年草であり、黒穂病を発症しても栄養繁殖によって繁殖できる可能性がある。そこで、多年草のヒヤシンス科ツルボScilla scilloidesを材料として、(1) 黒穂病の発症により有性繁殖が不能になるか、(2) 黒穂病を発症しても栄養繁殖により子(娘ラメット)を残すことができるか調べた。有性繁殖についての野外調査では、ツルボの黒穂病発症個体は胞子を伴った花を付けたが、種子を全く生産しなかった。栄養繁殖については、開花した発症個体と健全個体の鱗茎(親ラメット)を野外で採取し、圃場で1年間栽培して調べた。栽培開始時に同程度であった鱗茎重は、1年後には発症個体で約1.5倍、健全個体で約1.2倍に増加した。生存率は発症個体、健全個体ともに約86%で、生存個体のうち栄養繁殖を行った個体の割合は発症個体で37.8%、健全個体で77.2%であった。栄養繁殖を行った親ラメットの娘ラメット総重量は発症個体と健全個体の間で差が見られなかったが、娘ラメット生産数は健全個体で約2.2個、発症個体で約1.6個であった。健全個体と比較して、発症個体で栄養繁殖を行う個体の割合が約1/2倍に低下したことや生産される娘ラメット数が少なかったことは、黒穂病の発症により多年草宿主の有性繁殖が不能になるだけでなく、栄養繁殖能力も低下することを示唆する。