| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-108 (Poster presentation)
スミレ属植物は、開花し結実に至る「開放花:CH」と、蕾のまま結実する「閉鎖花:CL」という形態と機能が異なる花を1個体内で形成する。演者らは、これまで北海道の低地林床に生育するオオバキスミレの繁殖戦略に関する調査を行ってきた。その結果、オオバキスミレにはCHとCLを形成し、種子繁殖のみを行う集団(CH/CL型集団)と、CHのみを形成し、その一方で地下部の根茎を横走させ、クローン繁殖を行う集団(CH/Clone型集団)の2タイプの集団が存在することが明らかになった。さらに、オオバキスミレと分布域や葉の形態が異なるフギレオオバキスミレ(以下、フギレ)もCHのみを形成し、根茎を横走させクローン繁殖を行っていることから、オオバキスミレ種内には、CH/CL型と、フギレを含むCH/Clone型という2タイプの繁殖戦略が存在することが明らかになってきた。
そこで本研究では、フギレを含むオオバキスミレ種内にみられる2タイプの繁殖戦略の遺伝的・系統的関係を明らかにするため、これまで調査を行ってきた13集団に関して、葉緑体および核DNAの非コード領域の配列多型に基づく分子系統解析を行った。その結果、オオバキスミレCH/CL型集団とCH/Clone型集団に明瞭な遺伝的分化が生じていることが示された。また、同所的に生育するオオバキスミレのCH/Clone型集団とCH/CL集団間においても明瞭な遺伝的分化が認められ、相互に遺伝子流動が制限されていることが示唆された。さらにフギレ集団はオオバキスミレのCH/Clone型集団と同じ系統群であることが明らかになり、オオバキスミレ種内におけるフギレの葉形態の分化は派生的に生じた可能性が考えられた。したがって、フギレを含むオオバキスミレ種内に見られる2タイプの繁殖戦略は、遺伝的・系統的に異なることが示された。