| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-120 (Poster presentation)
降水量と一次生産が時空間的な異質性が高いモンゴル高原では、利用できる植物を求めて家畜を移動させる遊牧形式の牧畜生産活動が古くから営まれてきた。遊牧地の選定には草原の現存量と群落内での家畜の摂食嗜好種の割合が重要であるが、それらの時空間的な異質性と採食利用の関係が定量的に解明されていない。
本研究は、遊牧に利用されているモンゴル草原植生の時空間的な異質性と遊牧の関係を長期観測によって明らかにすることを目的とする。
調査地はモンゴル国の典型草原と砂漠草原の境にあたるバヤンーウンジュール郡内のバヤンギーン・エンゲル草原で、一年にわたって家畜が放牧される。
1999年に設置した防畜柵(100x100m)の内外で、毎年(1999-2013)8月の末に、それぞれ4つのプロット(1x1m)を設置、種の同定と刈り取りを行った。
全調査期間を通して群落の現存量の66%、18%、16%を高嗜好性種、中嗜好性種、低嗜好性種がそれぞれ占めた。
柵内群落の地上部現存量が少ない年は、柵の内と外で地上部現存量にほとんど差がなく、植物の生育が悪く、現存量が少ない年はできるだけ放牧に利用しないようにしていることが明らかとなった。このような利用の仕方が、草原の空間的な異質性に対する遊牧の適応と考えられる。
柵内の地上部現存量が多い年に高嗜好性の単子葉種と中嗜好性の一年生双子葉種が交互に、あるいは同時に群落を優占していた。高嗜好性の種が優占した年は採食圧がそれらの種に集中するが、高嗜好性の種の生産量が低い年は採食圧が中嗜好性の一年生双子葉種に集中することが明らかとなった。群落構成種に対する採食圧のこのようなトレードオフが草原の時間的な異質性への適応と考えられる。