| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-135 (Poster presentation)
ニホンジカ(以下、シカとする)が自然植生へ与える影響が生態系被害として社会問題となりつつあり、その解決のために個体数を適正密度まで減少させる必要があるとされている。一方、欧米でオオカミの再導入後の植生の変化から、捕食者の存在がシカの採食行動に及ぼす影響が、植生への影響にも関係していることが示されており、シカの影響を考える上で生息密度だけでなく、利用強度の影響について十分に把握することが重要と考えられる。本報告では、防鹿柵を開閉することでシカの利用強度を調整して、シカが植生に及ぼす影響について7年目の結果を交えて報告する。
調査地は京都大学芦生研究林上谷の開放湿地で、そこに6m×6mの防鹿柵を5つ設置した調査区を2007年に2箇所設置した。また、2011年には8m×9mの防鹿柵 5つを設置した調査区を1箇所設けた。3つの調査区は、6~9月の夏季の間、閉鎖区と開放区(対照区)のほかに毎月、2日間、4日間、 8日間、16日間開放する4処理区を加え、そこに付加される糞塊数をカウントし、9月に植生の変化を被度によって把握した。防鹿柵の設置は2007年であるが、2009年から一定の基準で糞塊・糞粒調査と植生調査を行ってきている。
2013年度にはこれまでにない植生の変化が2つ見られた。一つは、これまでシカの採食圧を中程度に調整している処理区で見られたアシボソの被度が全体的に激減したことである。アシボソは1年生草本であるが、昨年も開花は見られており激減の原因は不明である。もう一つはダンドボロギクの侵入である。ダンドボロギクは採食可能な植物種と思われるが、現時点では不嗜好植物であり、ダンドボロギクの侵入が進むとイグサを被陰するなどの影響をもたらすと考えられる。このようなシカの採食圧だけでは説明できない現象も種数や多様度指数の変化にも影響を及ぼしている。