| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-138 (Poster presentation)
オスジカの角は毎年生え変わり、この新しい角を袋角といい、生えたばかりの頃は柔らかく次第に硬直化していく。発情期のオスが硬直化した角を木に向かってこすりつける行動を、角研ぎという。広島県宮島において、①シカの角研ぎの発生率(角研ぎ率)、②樹種に対する選好性、③樹木サイズに対する選好性について調査を行った。
調査は宮島北東部の毎木調査用のプロット(0.48 ha)で実施し、プロット内の胸高直径5 cm上の木を対象に、角研ぎによってできた傷の有無とその数を記録した。このプロットは、島内でシカの生息密度が極めて高い(約88 頭╱km2)地域内にある。角研ぎに用いる樹種の選択性については、Ivlevのelectivity index(E)を用いて定量した。また、1)樹皮の形状(滑面と粗面)、2)木が生えている地形(尾根、谷、斜面)と角研ぎ率の関係も調査した。
その結果、調査区の角研ぎ率(角研ぎを受けた個体数/出現全個体数×100)は8.2 %に及ぶことが分り、この結果は、奈良県春日山における2.6 %(前迫 2001)よりも高い。樹木サイズの選好性に関しては、胸高直径階32 ~64 cmの木が高かった。また、樹種選好性はソヨゴ、ネズミモチで高く、反対にネジキ、ヒサカキは避けられていた。1980 年に宮島で実施された同様の角研ぎ調査(Okuda 1984)では、ヤマツツジ、カマツカで著しい被害があったことが報告されているが、これらの樹種は調査対象地では現在確認が難しく、シカの角研ぎの影響によって個体数を著しく減少させていることが推察された。角研ぎ対象種のその他の特性を分析したところ、滑面状の樹皮を持つ木(角研ぎ率=11.2 %)が粗面状の木(2.3 %)に比べて、また、谷部分に生えている木の方(14.1 %)が斜面(6.4 %)や尾根(4.5 %)の木に比べて、選好性が高いことが分かった。