| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-141 (Poster presentation)
マルハナバチ媒花植物は他の昆虫に利用されにくい花形態のため、マルハナバチの訪花が不足すれば他殖成功度が低下することがある。一方、マルハナバチ媒花でも他の昆虫に頻繁に訪花される植物も少なくない。訪花したマルハナバチの体背面に葯と柱頭が接触するツリフネソウはマルハナバチ媒花と考えられるが、他の昆虫も多く訪花する。マルハナバチ媒花植物が他の昆虫の訪花を受ける生態的意義を検討するため、ツリフネソウを材料にマルハナバチと他の昆虫の送粉への貢献を比較した。
石川県金沢市の角間と戸室のツリフネソウ個体群で、2006年と2013年に計16種の昆虫の訪花を確認した。角間ではクロマルハナバチ、クマバチ、ツルガハキリバチ(以下、ツルガ)、スズメガ、戸室ではトラマルハナバチ(トラマル)、スズメガの訪花頻度が高かった。1回の訪花でツリフネソウを結実させる能力はトラマル、ツルガが高く、体表面に付着していた花粉数の種間差の傾向と一致した。クロマルハナバチとクマバチは距に穴を開けて盗蜜するため、また、スズメガはホバリングしながら吸蜜するため送粉能力は低かった。角間ではツルガによって他殖成功が維持されたと考えられたが、花粉制限は戸室よりも強かった。
ツリフネソウの最も有効な送粉者はトラマルであった。ツルガは送粉に貢献したが、一般に分布が限られる種であり、ツリフネソウにとっては偶発的な送粉者に過ぎない。したがって、ツリフネソウはトラマルが不在な個体群では他殖成功度が低下する可能性がある。ツリフネソウの花冠はトラマルの体長よりも深く、トラマルは花冠奥まで潜り込む必要があった。一年草で自家和合性のツリフネソウは攪乱地などに短期間で集団を形成することがあるが、大きめの花冠サイズはトラマル以外の昆虫による送粉の機会を排除しない保険的な効果があるだろう。