| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-143 (Poster presentation)
河畔性ヤナギ属植物は、河川撹乱に依存した先駆性樹種であり、その種子は冠毛のついた風散布種子だが水流散布の寄与も示唆されている。近年の河川環境の改変に起因する河畔林の孤立分断化は、ヤナギ属植物の遺伝子流動の障壁となり、集団の存続に負の影響を及ぼす可能性がある。しかし、河畔性ヤナギの遺伝子流動の様態、とくにその規模や方向性、景観の分断化の影響などは、これまで十分理解されてこなかった。本研究では、東北地方の山地河川に生育するユビソヤナギ(Salix hukaoana)を対象として、マイクロサテライト遺伝マーカーを用いた遺伝解析をおこなった。
各流域におけるユビソヤナギ集団の遺伝構造は分断化の程度に応じて変化した。すなわち、より原生的で、生育パッチ密度の高い河川の集団は強い遺伝構造を示したのに対し、パッチ密度が低い河川では遺伝構造は弱く、広範な遺伝子流動が示唆された。また多くの河川流域で、遺伝的多様性は下流に向けて増加する傾向があった。ただし孤立の著しい分集団、縮小した集団においては、遺伝的浮動の影響も見られた。また、STRUCTUREによるクラスタリング解析は、支流間の遺伝的分化とともに、河川の合流点下流における異なるクラスターの混合を示していた。こうした遺伝構造の異質性は、遺伝子分散に急尖的な距離分布と河川下流への方向性とを仮定することで説明できる。そこで、最も原生的な河川環境を残す湯桧曽川流域において、林齢を考慮に入れたアサインメント解析を行ったところ、推定された遺伝子分散は急尖的で、かつ河川下流方向に偏っていることが示された。
以上から、河畔性ヤナギは、ある程度の分断化に対しては、長距離散布が有効に機能して抵抗性を示すことが推測される。しかし、数キロ以上の著しい分断化、特に上流や支流における集団の孤立は遺伝子流動の障壁となる可能性がある。