| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-028 (Poster presentation)
生活史の途中で生息地を変える生物は、生態系を繋ぐ大きな架け橋の一つである。系外資源流入の研究は、このような生物の移動について系外からの資源が受け手の食物網に与える影響の一つとして研究を行ってきた。しかし、このような生物は栄養塩や物質とは異なり、捕食や競争といった生物間相互作用を通しても群集内の他の生物と相互作用するため、餌生物としてのみの評価では不十分である。このような生物間相互作用は、系を移動する生物自身の体サイズや個体数を変え、受け手の生態系への影響の大きさを変える。栄養塩、物質、生物の移動を統合して考え、群集、生態系への動態に与える影響を明らかにするためには、系を移動する生物の種内・種間の相互作用を考えることが欠かせない。そこで本研究では、モリアオガエルを材料に、池の局所群集にモリアオガエルが加入し、変態して水域から出ていくまでに起こる幼生と池の群集、生態系過程との相互作用について野外観察とメソコスム実験を通して調べた。具体的には (1) 卵塊が小水域に入った直後の栄養塩濃度 (2) 幼生が栄養塩濃度、藻類の現存量、ミズムシの個体数、落葉分解速度といった群集と生態系過程への影響 (3) 幼生自身の個体数の減少と体サイズの増加、最終的なエネルギー輸送量について、これらがモリアオガエルの卵塊量や幼生の個体数と高次捕食者であるイモリの有無によってどのように変わるか調べた。その結果、モリアオガエル卵塊が小水域に入った直後の1ヶ月間に幼生や卵塊は栄養塩濃度を素早く大きく引き上げること、幼生は小水域の中で栄養塩濃度や藻類の現存量を引き上げ、ミズムシの個体数を抑制すること、そしてエネルギー輸送量は捕食者の存在により制限されることが分かった。特に重要なのは、これらの結果は栄養塩回帰や体サイズの増加といった、これまでに注目されてこなかった生物間相互作用が強く影響しているという点である。