| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-032 (Poster presentation)
タンガニイカ湖のシクリッド科魚類は適応放散の一例として有名で、生態や形態が多様な200種以上の固有種が生息しているが、なぜこれほどまでに多様に分化したのかは疑問である。本研究では、類似したニッチを持つにも関わらず、比較的狭い範囲の岩場で複数種が共存しているTropheini族に注目し、各種において魚体輪郭および機能形態(歯顎形態・腸管形態)を観察し、特徴付けした。それらを先行研究による生態データおよび分子系統樹と照らし合わせ、機能形態の多様化を明らかにして、ニッチ分化の過程を推定することを目的とした。
Tropheini族シクリッド17種のホルマリン標本を解剖し、形態観察を行った。魚体輪郭・歯顎形態についてはGeometric Morphometrics解析、腸管形態は顕微鏡観察と実測によって数量化した。これら17種は、摂餌様式により4つのグループ(梳き取り8種、摘み取り6種、吸い込み1種、その他2種)に分けられ、また分子系統樹により6つのクレード(梳き取り1、摘み取り3、摘み取りとその他1、吸い込み1)からなることが知られる。
梳き取り藻食者は種間で魚体輪郭において形態の差異が大きく、歯顎形態においても細かい差異が認められた。一方、摘み取り藻食者は歯顎・腸管形態において種間で大きな差異が認められた。各種の生態を考慮すると、両グループとも藻食に機能形態を特殊化し、さらに、特殊化の程度が様々であることが分かり、加えて摂餌行動や生息水深などを微妙に違えることによって、同一の摂餌様式でも種間でニッチを細かく分割していると考えられる。分子系統樹に基づくと、Tropheini族シクリッドの多様化は、まず多様な摂餌様式に分化し、さらに同一の摂餌様式内でも資源利用を少しずつ違えてニッチ分化することにより生じたと考えられる。
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