| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-034 (Poster presentation)
近年、生物多様性保全の観点から、スギ、ヒノキなどの人工林においても、下層植生を豊かにする、広葉樹を適正に配置するなど、生物多様性に配慮した森林管理が重要な課題となっている。しかし、ニホンジカ(以下、シカ)の個体数の増加および生息域の拡大により、下層植生の変化や衰退が日本各地で起きている。このようなシカの採食による下層植生の改変は、食物網や生物間相互作用を通して他の生物に影響を及ぼし、森林生態系を質的に変化させることが懸念されている。そこで本研究では、ヒノキ人工林におけるシカの採食様式を再現した操作実験によって、シカが人工林内の生物多様性に及ぼす影響を推定することを試みた。
調査は、シカが高密度(約40頭km-2)に生息する三重県林業研究所の43年生ヒノキ人工林で行った。本調査地には約6年前に防鹿柵が設置されており、この柵内の樹高45~190 cmのヒサカキを調査木として32個体選出した。これらをさらに、シカの採食を想定して当年枝を25%、50%、90%刈り取る3つの処理区と無処理区とに割り当てた。以上の4つの処理区におけるヒサカキとそこに生息する節足動物群集の枝の刈り取り前後の変化を比較し、シカの採食による当年葉の量的な変化を推定するとともに、さらにその変化が、節足動物群集に及ぼす影響について考察した。
その結果、節足動物群集の個体数は無処理区では変化がみられなかったが、その他の処理区では、刈り取りによる当年枝葉量の減少とともに、節足動物群集の個体数も減少する傾向が認められた。ただし機能群ごとで、刈取りの程度によって異なる反応がみられた。シカの採食による当年葉量の減少は、節足動物群集に負の影響をもたらすことが示唆された。