| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-042 (Poster presentation)

明神海丘の熱水域・非熱水域における線虫類群集の空間変異

瀬戸口友佳(熊本大), *嶋永元裕(熊本大),渡部裕美(JAMSTEC), 野牧秀隆(JAMSTEC), 北橋倫(東京大), 井上広滋(東京大)

深海底熱水噴出域(熱水域)には,ハオリムシ類やシンカイヒバリガイ類など,通常の深海底では見られない固有の大型底生生物が生息するが,これらの分類群では,プランクトン幼生による浮遊分散により,1000km離れた熱水域間にも共通種が見られる場合がある.一方,メイオベントス(1mm以下の小型底生生物)の場合,熱水域固有の分類群は知られておらず,むしろ周辺の通常の深海底と近縁の分類群が生息していることが指摘されていた.これは,メイオベントスには浮遊幼生が通常存在せず,熱水域への進出・適応が局所的に生じるためであると解釈されているが,一般則として確立するには知見が乏しい.

「メイオベントスでは,熱水域への進出は局所的に起こる」という仮説を検証するために,伊豆諸島海域に属する海底火山の1つ,明神海丘カルデラを調査地域として選び,メイオベントスで最も優占する線虫類を対象に,カルデラ内の熱水域と非熱水域,およびカルデラ外非熱水域の属レベルの群集解析を初めて試みた.その結果,以下のことが明らかになった.

1.明神海丘周辺の群集構造を比較した場合,明神海丘カルデラ内の熱水域とカルデラ外非熱水域間の平均類似度が最も低く,カルデラ内非熱水域は両者の中間的な群集構造を示した.

2.明神海丘の熱水域線虫群集は,他の海域の熱水域,冷湧水域の群集よりも明神海丘周辺の非熱水域の群集と類似性が高かった.

これらの結果は従来の知見と矛盾せず,明神海丘においても,熱水域への線虫類の進出は,「カルデラ外の通常の深海底→カルデラ内非熱水域→カルデラ内熱水域」というプロセスで起こったと考えられる.


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