| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-099 (Poster presentation)
野生動物の営巣生態の情報は、生存適応や進化を理解するための重要な手掛かりである。野生動物にとって巣は休息や繁殖を行う場所で、造巣のために多くのコストが必要となる。しかし一部の種では、造巣コストがかかるにも関わらず複数の巣を持つ。社会性が強く、複数個体が同じ巣を同時に利用する種では、複数の巣を持つことは外部寄生虫の増加防止に効果的だとされる。一方、単独で営巣する種ではこれまでその理由は調べられていない。本研究では、単独営巣性哺乳類であるタイリクモモンガが複数の巣を持つ理由を、捕食者の影響に注目して調べた。野生のタイリクモモンガが巣から出てくる時に、以下の7つの実験を合計で139回行った。1) 捕食者であるフクロウの剥製 (樹にとまっている体勢) を見せる。2) 飛んでいる体勢のフクロウの剥製を巣に向けて飛ばす。3) フクロウの声を聴かせる。4—6) これら3つの実験に対するコントロール。7) 上記のいずれの刺激も与えない。そして、実験を行った翌日に、本種が他の巣に移動したかどうかを調べた。実験の結果、フクロウの剥製を飛ばす実験では翌日の巣移動率が75%であったのに対し、他の実験ではわずか9—22%であった。樹洞のIDをランダム効果として扱ったGLMMおよびTukey の多重比較検定を用いた解析の結果、フクロウの剥製を飛ばす実験のみで、他の実験区に比べて翌日の巣移動率が高いことがわかった。複数の巣を持つことは、巣が捕食者に襲われた時に、素早く他の安全な巣へ移動することに有利だろう。本調査結果は、単独営巣性哺乳類が複数の巣を持つ理由が、捕食者回避のための適応であることを示す可能性がある。