配偶システムは種の特徴として固定したものではなく、たとえ同種であっても生態的・社会的環境の時空間的変異に応じて変化しうる。しかし、その可塑性の度合いは、その生物が進化の過程で獲得してきた様々な形質に依存しており、この制約が非常に強い場合には環境変異に関わらず配偶システムは固定したものになる。演者らは、他の動物では稀な一夫一妻や一妻多夫など多様な配偶システムを示すヨウジウオ科魚類において、卵巣構造と卵生産様式、配偶システムに密接な対応関係があることを明らかにした。このことは卵巣構造によって規定される卵生産様式が配偶システムの決定に大きく影響しており、本科魚類において卵巣構造の進化が配偶システムの多様化の原因であり、また同時に系統的制約として配偶システムを決める重要な要因となっていることを示唆している。本研究では、配偶システム、卵巣構造および卵生産様式の異なるヨウジウオ科魚類18種の分子系統関係を明らかにし、祖先形質状態復元解析により卵巣構造および卵生産様式の進化プロセスと配偶システム多様化のパターンを比較することでこのことを検証した。