| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-109 (Poster presentation)
カヤネズミ(Micromys minutus)は、イネ科草本群落の高い位置に球状の巣を造り、それらの巣の一部で出産・育仔を行うことでよく知られるが、実際には、本種が地表にも営巣することが演者らにより既に報告されている。しかし、地表に繁殖用の巣が造られるかどうか、球状以外の形状の巣の機能、および雄や妊娠も授乳もしていない雌が造る巣の機能についてはいずれも明らかになっていない。
野外のイネ科草の優占する群落に設置した飼育ケージ内にカヤネズミを放逐して営巣させ、動画により観察した結果、本種が造る巣の形状には様々なものがあり、休息やグルーミング、睡眠などにかなりの長時間それらの巣を使用すること、ほとんど通り抜けだけに使う場合もあることなどが確認された。また、野外の野生個体および飼育ケージ内の飼育個体に対し、他個体が造った繁殖巣、雌獣が造った非繁殖巣、雄獣が造った巣などの巣材の一部を提示したところ、特定の巣材を選択してニンヒドリン反応により検出される排尿反応を示すことが確認された。また、選択した巣材を噛む動作をすることも観察された。これらのことから、カヤネズミが造る巣には他個体に対する信号的機能を有する可能性が示された。カヤネズミは、生息域の地表を平面的に利用するだけではなく、立毛状態の群落を含めて生息域空間を立体的に利用するため、群落内に造られる様々な形状の巣は、雌雄獣が出会う確率をあげる重要な役割を果たしている可能性がある。
カヤネズミにおいては、草高1.5-2.0mの群落の高い位置、すなわち人の目の高さに近くみつけやすい位置に造られる球状の巣が、本種の造る巣のすべてであるという前提のもと、それらの球状巣の探索結果のみによって現在の見解が形成されてきた。しかし、本研究の結果から、球状以外の巣やみつけにくい位置の巣も対象に含めて本種の生態を見直す必要があるといえる。