| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-116 (Poster presentation)
甲虫目シデムシ科ヒラタシデムシ亜科には、雄が雌をしっかり掴む行動が発達している。交尾を試みる雄は、初めに雌の上に登るが、すぐに挿入せず、前方へ移動し、雌の触角を下顎で噛み、その後挿入する。Anderson(1989)は、雄が雌の触角を挿入終了後も一定時間噛んでいるところを観察し、触角噛みが配偶者ガードとして機能しているのではないかと予想した。実際に、Necrophira americanaは配偶者ガードを行い、雄バイアス状況においてガード時間が長くなる。腐肉に雄と雌が集まって交尾するN. americanaでは、実効性比が雄に偏るため、雌をめぐる雄間の競争が激しく、雄は不足する雌を交尾中のペアから奪わなければならない。雄は挿入終了後も数時間マウントし、他雄による乗っ取りを防ぎ、雌の再交尾を防がなければならない。故に、触角噛みが配偶者ガードとして機能している可能性は十分ある。
本研究の目的はヒラタシデムシ亜科における触角噛みの役割を明らかにすることである。いくつかの種において触角を切除した雌を雄に提示し、そのときの配偶行動を無処理雌との交尾と比較した。また、触角を噛まなくても交尾できる種では、触角を噛んだ雄と噛まなかった雄との間で比較した。結果、Andersonの予想通り触角噛みが配偶者ガードとして機能する種がいる一方で、ガード時間や乗っ取りの回避に影響しないが、触角を噛めないと交尾を始められない種がいることが分った。シデムシ科モンシデムシ亜科では触角噛み行動は見られないため、触角噛みはヒラタシデムシ亜科の腐肉食性の祖先種で進化した可能性が高い。腐肉食性種では雄間競争が激しいため、配偶者をガードして父性を高められることが初期進化を促したと考えられる。一方、土壌無脊椎動物食に変化した派生種では配偶者ガードとしての機能は消失し、新たに交尾を開始するために必須な行動としての役割を担うようになったと考えられる。