| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-117 (Poster presentation)
動物のなわばり行動や性淘汰における雄の派手な模様など、種内競争における個体の優劣に関わる形質は、同時に個体の捕食のされやすさにも関係していることが多い。一般的に、種内競争に関わる形質についての進化的に安定な戦略(ESS)が捕食圧によってどのような影響を受けるかを、単純な数理モデルをたてて解析した。個体は、種内競争の優劣に関わる形質への投資量xを大きくするほど種内競争に有利になるが、いっぽうで形質自体の直接的なコストに加え、捕食者に捕食されるリスクが増加すると仮定する。解析の結果から、競争に関する偏り(xの増加に対する競争の有利さの増加率)が大きいほど進化的に安定なxの値x*が増加し(つまり種内競争が強くなる)、このときESS個体群の平均適応度は低下することがわかる。いっぽう、捕食に関する偏り(xの増加に対する捕食されやすさの増加率)が大きいほどx*は減少し(種内競争が弱くなる)、このときESS個体群の平均適応度は増加する。とくに、捕食に関する偏りがある程度以上大きい場合は、捕食圧が増大するとESS個体群の平均適応度はむしろ増加するという一見奇妙な結果が得られる。これは、捕食圧を増やした場合にx*が減少することで捕食率および直接的コストが軽減するという間接的な正の効果が、被食による直接的な負の効果を上回るためである。この結果は、群集の動態について考える際には、単純な個体群動態だけでなく、種内で生じる適応的・進化的動態も考慮することが重要であるという一般的な原理を示していると考えられる。