| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-118 (Poster presentation)
様々な動物でみられる右利き・左利きはどのような要因によって決定されるのだろうか?利きの研究が最も進んでいるヒトの利き手ですら、優位性の決定機構の解明は十分でない。発達を通じて左右性がいつ・どのように現れるのかを明らかにすることは、その謎に対して有益な示唆を与えてくれるだろう。捕食行動に顕著な左右性を示す、タンガニイカ湖産鱗食魚(Perissodus microlepis)は、口部形態にも捕食行動と対応する左右非対称性をもち、種内に右利きと左利きが存在することで知られている。しかし、本種の左右性に関する研究は成魚に限られており、捕食行動の左右性と口部形態の左右差の発達過程は不明であった。
そこで、我々は様々な発達段階の鱗食魚を野外で採集した。下顎骨の左右差を計測した結果、プランクトン食である稚魚期でも、その左右差の頻度分布は明瞭な二山型を示すが、体長とともにその左右差は拡大し、成魚では稚魚期の約3倍に達した。また鱗食魚の胃から得られた鱗の形状を精査して鱗の由来する体側を割り出し、捕食行動の左右性を推定した。成魚では、口部形態の利きと合致した体側の鱗を専食していた。一方で、小さな鱗食魚では、それとは逆側の鱗も少し摂食していた。さらに、口部形態が偏っているほど、捕食行動の左右性が顕著で摂食鱗数が多いことが分かった。これは鱗食魚の口部形態の左右差が捕食において有利となるという仮説を初めて裏付けている。
今回の結果から、口部形態の左右差の発現には遺伝要因が関与すること、可塑的性質をもつことが示唆された。また、発達初期では被食魚の両体側を襲うが、口部形態の利き側からの方が捕食成功率が高いことを学習し、その後は捕食行動が利き側により偏っていくことが考えられた。環境要因(学習・経験)は、鱗食魚の優位な方向を逆にはできないまでも、左右性の強さを変化させる可能性がある。