| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-129 (Poster presentation)

「全国市民調査による里やまの生物多様性評価の取り組みとその課題 ~モニタリングサイト1000里地調査 5年間の成果より~」

*小此木 宏明, 後藤 なな. 福田 真由子. 高川 晋一(日本自然保護協会), 佐藤 直人(環境省・生物多様性センター)

里地里山(以下、里やま)は、多様な動植物の生息地として自然環境保全上重要な環境だが、国土の4割を占めており私有地も多いことから、一部の専門家や行政機関のみでは全国規模でその生物多様性の現状を把握することは困難とされてきた。

環境省では、2003年より全国の森林・草原や湖沼湿原、里やまなどの代表的な生態系において長期モニタリングを行う「モニタリングサイト1000」を開始している。そのうち里やまでは、2004年から日本自然保護協会が事務局を担い市民が主体となって実施可能な調査の体制構築に取り組んできた。

その結果、現在までに全国約200ヶ所における1500名以上に及ぶ市民調査員との実施体制を構築した。また、多くの専門家や博物館、NGOと連携することによって全国で調査講習会を実施し、2013年には植物の同定についての調査技術向上のための研修プログラムを開催するなどの調査員のフォローアップも行っている。

調査結果からは、里やまにおける全国規模での生物多様性に関する量的データが初めて得られた。例えば、全国的な種多様性の傾向を掴み今後のモニタリングのためのベースラインデータが得られたのに加えて、ホタル類調査の結果からは、全国の調査地のうち記録個体数が100を下回るような脆弱な個体群となった地点が、全体の6割以上を占めている現状が明らかとなった。一方で、調査地のうち半数以上では何らかの保全活動が実施されていることもわかり、実際に市民によって水辺再生が行われた調査地ではホタル類の個体群の回復がみられたなど、市民活動が里やまの保全に大きな役割を果たしていることが示唆された。


日本生態学会