| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-132 (Poster presentation)

岡山県東部の自然保護地域におけるニホンジカによる採食の記録―痕跡および水生植物の生育状況から

森 生枝(岡山県自然保護センター)

日本各地でニホンジカが分布を拡大させ,その採食圧によって森林の生物相への影響が顕著になっている.さらに,湿原においても近年シカが出没し,湿原植生や泥炭層を攪乱していることが知られている.採食効率という点からシカは森林よりも湿原を好んで採食場所にするとの報告もある.ここでは,ニホンジカの食性について痕跡をもとにして報告するとともに,水辺の植生への影響を示唆する事例についても紹介する.

調査は,岡山県和気町に位置する岡山県自然保護センターの敷地内で行った.水辺を中心にして敷地内を不定期に歩いて観察し,写真撮影によりシカの痕跡を記録した.その結果,2006年から2012年までの調査期間内に木本類6種を含む28種類(岡山県版RDB2009に掲載された7種を含む)の植物にシカの痕跡を確認した.特に,水生植物ミクリの集団は,2008年に始まったシカの採食を受けて壊滅状態となった.2008年に初めて確認したシカによるミクリの採食痕を,当初はヌートリアによる採食痕と誤認したが,経過を観察するなかで,ヌートリアによる採食の影響とはかなり異なることに気づいた.すなわち,ミクリはヌートリアの被食を受けても増殖することができたのに対し,シカの被食を受けた場合にはほぼ消滅状態となっていた.シカは池底を掘り起こし,ミクリの長い地下茎を浮かび上がらせ,根や葉を含めた植物体のすべてを数回に分けて採食したと推測された.

このようなすべてを食べつくすというシカの食性によって,今後,ため池や水路等においてもシカの影響が強く現れることが推察される.


日本生態学会