| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-140 (Poster presentation)

ニホンウナギ放流の現状と課題

*海部健三,鷲谷いづみ(東大・農)

現在、ウナギを漁業権の対象魚種に指定している、ほぼ全ての内水面漁業協同組合でウナギの放流が実施されており、その影響は非常に大きいと考えられる。しかしながら現在のところ、放流個体が再生産に与える効果や既存の生態系に与える影響はほとんど評価されていない。放流されているウナギの特徴を把握するべく、生物学的調査と聞き取り調査を行った。

生物学的調査として、放流のために購入されたニホンウナギ(放流用個体)からサンプルを取り(2010年に122個体、2011年に116個体)、全長と性別を調べた。また、一部の個体の耳石微量元素比(Sr:Ca比)より、回遊履歴を復元した。聞き取り調査として、養鰻が盛んな4県(鹿児島、愛知、宮崎、静岡)20箇所の養鰻場を訪問し、飼育方法と放流用個体の出荷についてインタビュー調査を行った。

放流用個体の全長は、平均±標準偏差=291.0±63.8 mmであった。2010年の試料について性比を見ると、オスが48%、メスが5%、未分化が48%で、自然環境下で成育した個体の性比(メスが優占)とは大きく異なっていた。放流用個体34個体の耳石Sr:Ca比を計測したところ、全個体が淡水のみを経験していた。この結果は、飼育水が淡水であるとの聞き取り調査の結果とも合致していた。放流のためにニホンウナギを出荷したことのある養鰻場のうち、8カ所より出荷時のサイズと飼育期間について聞き取り調査を行うことができた。放流用個体出荷時の質量は20-50gが最も多く、最大で500g、最少で20グラムであった。また、飼育期間は10ヶ月以上で、最長期間は4年間であった。一般的に日本の養鰻は単年で行われ、冬期に池入れしたシラスウナギは半年から1年後に200-250g程度で出荷される。これらの調査によって、ウナギの需要が最も高まる土用の丑の日を過ぎてからのち、成長の遅い個体が選択的に放流用個体として出荷されていることが明らかとなった。


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