| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-141 (Poster presentation)
自然再生に向けた社会的関心の高まりに後押しされる形で、針葉樹人工林の広葉樹林化は、行政施策や市民活動として各地で進められている。世界自然遺産に指定されたブナ天然林を有する白神山地においてもその傾向は同様である。当山地では、1960年代以降、遺産地域周辺の森林の約70%は針葉樹人工林に置き換えられてきた。そのミティゲーションとして、現在、ブナ植栽事業が進められている。しかし、広葉樹林化が、野生動物の生息地回復にどのように影響するかを評価した事例は乏しい。そこで、本研究では、当山地に広く分布するニホンザル野生群を対象に、既存の人工林地(通常の短伐期施業地)において、①広葉樹林化を実施した場合、②短伐期施業を継続した場合、③長伐期施業に転換した場合、の3つのシナリオのもとで生息地評価を実施した。生息地評価は、当山地北東部に分布するニホンザル4群の季節ごとの観察地点(2007~2009: 春250、夏334、秋388、冬284ポイント)と、複数の環境条件(植生・森林施業様式・地形・土地利用などの13変数)を用い、最大エントロピーモデル(MaxEnt)により行った。
その結果、①積雪期を除き、広葉樹林化はハビタットユニット(生息地の質と量の積)の向上に必ずしも貢献しないこと、②長伐期施業地はより優れた代替生息地となる可能性があること、などが明らかとなった。このことは、生息地をもとの状態に戻すことが常に最善の生息地回復のためのミティゲーションになるわけではないという教訓(Field of dreams paradigm)の一例としてみなすことができるかもしれない。