| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-152 (Poster presentation)
異型花柱性の他殖性植物であり、クローン成長を行うサクラソウの長期的な存続には、集団内のジェネット数や花型比が重要な要因となる。埼玉県の荒川水系江川下流域に自生するサクラソウ集団(上尾集団)では、2000以上のラメット数が確認されているが、それらはわずか10ジェネットで構成されており、そのうち長花柱花が1ジェネットしか存在していない。そこで本研究では、(1)人工授粉、(2)土壌シードバンク、(3)自生地外個体の導入が、上尾集団の遺伝的多様性の維持・回復に有効であるかを検討した。
(1)上尾集団における種子生産性を調査したところ、自然条件下での種子生産性は低いものの、雌性および雄性の稔性は維持されていること、そして人工授粉により生産種子数が著しく増加することが明らかになった。(2) 土壌シードバンク探索のため採取した70箇所の土壌からは、サクラソウの実生は確認できなかった。(3)上尾集団由来であるとされ、現在は自生地外で系統保存されている長花柱花2ラメットについて、SSRマーカー8座の遺伝子型に基づくアサイメントテストを実施したところ、当該ラメットの示す遺伝子型が生じる確率は全国の32の野生集団のうち上尾集団で最も高く、次いで同じ荒川流域の田島ヶ原集団であった。加えて、他の30 集団における確率が0 であったことから、2ラメットの長花柱花は荒川流域の集団由来であると推定され、上尾集団への導入候補個体になりうると考えられた。
以上の結果から、上尾集団の遺伝的多様性を維持・回復する手段として、まず集団内に現存するジェネット間での人工授粉による新規ジェネットおよび花型の作出を試み、状況に応じて、自生地外で系統保存されている長花柱花の導入が有効であると考えられた。