| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-153 (Poster presentation)
北九州市のある溜め池(自生池)は、現在、多年生沈水植物ガシャモク(国レッドリスト絶滅危惧IA類)の国内唯一の生育地であるとされている。しかし2000年を境に、この自生池でもガシャモクの生育状況が急激に悪化した。これを受け2002年から、ガシャモク再生の会や地元自治会(呼野町内自治会)、市立市丸小学校、市環境局、小倉南区役所、北九州自歴博、福岡県保環研等の様々な団体が協働し、ガシャモクの保全に向けた活動を行ってきた。
まずは、ガシャモク個体群衰退理由の解明に向け、自生池の水質・底質の理化学性分析や自生池及び周辺域の利用状況の聞き取り調査等を実施した。その結果、ガシャモク個体群衰退の主要因は、池底への微細で富栄養化した底泥の大量堆積であると考えられた。また、水田耕作面積の激減と池水利用の低下がもたらした水位の安定に由来する池堤の浸食と、池周辺の樹木伐採の停止による遷移進行に起因する池内へのリター供給量の増加および池内への透過日射量の減少が、ガシャモク個体群衰退の究極要因であると考えられた。さらに、自生池が石灰岩台地を伏流してくる清涼な水しか流入していない事等のため水落しが50年以上実施されていなかったことも、底泥の富栄養化を促進したものと考えられた。
以上のことから、ガシャモクの保全には、池の水落しや周辺樹木の伐採等の人による自然への働きかけが重要であるとの結論に至り、地元自治会を中心とした水落しの再開や周辺樹木の伐採等が実施された。2010年以降は自生池の透明度の上昇やガシャモクの生育量の増加が確認され、ガシャモクの保全には適度な人為的要因の関与が不可欠であることが実証されつつある。