| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA3-158 (Poster presentation)
水田雑草植生は,耕作体系や栽培管理に大きく影響をうけることから,水田雑草には,近年の農地基盤の改良や除草剤等の農業技術の進展によって減少傾向にある種群も少なからず存在する。トチカガミ科のイトトリゲモ( Najas gracillima )は水田やため池などに生育する一年生の沈水植物であり,笠原(1951)によると,戦前には北海道から九州沖縄まで全国の水田に普通に分布していた水田雑草であった。しかし,現在では各地で絶滅危惧種に指定されるほど全国的に減少している。そこで,低投入かつ除草剤を使用しないかつて耕作体系に近い水稲栽培法を採用している自然農法の水田に着目し,イトトリゲモを含む水田植生を調査した。全国7都府県(埼玉県,千葉県,東京都,滋賀県,奈良県,大阪府,兵庫県)の自然農法水田計105筆に見られる植生を7月中-下旬に記録したところ,48筆(46%)の水田でイトトリゲモの発生が認められた。48筆の立地は,谷低平野から丘陵地まで多岐にわたり,また土壌条件もさまざまである。各筆の植生データを用い,TWINSPANにて植生分類したところ,立地条件によらずイトトリゲモを含む水田はまとまった植生タイプに分類された。また,各筆の自然農法の取り組み年数,耕起から入水までの日数,入水から中干しを含む落水までの日数,最初の除草日から最後の除草日までの日数を因子としてCCAを行ったところ,イトトリゲモの発生には入水から中干しを含む落水までの日数が最も大きく影響していることが示された。このことから,イトトリゲモの生育は,農薬・化学肥料の有無に加え,水田の水管理の影響を強く受けている可能性が高い。