| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-034 (Poster presentation)
リン欠乏下にある一般的な熱帯林に対し、窒素可給性の低い熱帯ヒース林では地上部現存量が著しく低下する。こうした森林レベルのパターンが形成されるメカニズムを理解する上で、窒素欠乏とリン欠乏に対する樹木の生理的応答の違いを解明することは重要なステップとなる。本研究では、これまで見過ごされてきた、非生産器官(幹や根)の栄養要求に着目した。幹や根の主要な構成物質である細胞壁は、リンを必要としないが窒素を必要とする。そのため、窒素が欠乏すると、樹木は幹や根の窒素濃度を下げることができず、それに伴い葉の窒素濃度と配分が大きく低下すると予測できる(リンでは逆のパターン)。
上記の仮説を検証するため、マレーシア、サバ州において、窒素・リン可給性が極端に異なる3カ所の熱帯林(富栄養、リン欠乏、窒素欠乏)で優占する13樹種をモデルとして調査を行った。ギャップ下の稚樹を各種4個体掘り取り、各器官のバイオマスと窒素・リン濃度を測定した。また、各種約40個体選び、16ヶ月間の成長を測定した。
土壌栄養の可給性が大きく異なるにも関わらず、幹や根の窒素濃度はサイト間で変化しなかった。それに対し、幹のリン濃度はリン欠乏のサイトで有意に低下した。幹や根とは対照的に、葉の窒素・リン濃度は窒素欠乏のサイトで大きく低下し、リン欠乏のサイトで中間的な値を示した。葉への窒素配分は、窒素欠乏とリン欠乏のサイトで違いが無いのに対し、リン配分はリン欠乏のサイトで有意に増加した。これらの結果は、非生産器官の栄養塩要求の違いが葉の栄養濃度と配分を規定することを示唆している。また、葉の栄養塩濃度は、種毎の相対成長速度と正の相関を示した。以上の結果から、非生産器官がリンよりも窒素に対して高い要求度をもつため、窒素欠乏下で、樹木は葉の栄養塩濃度、配分と成長速度がより制限される可能性が示唆された。