| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-039 (Poster presentation)

ナキリスゲ (Carex lenta) のダウシフォーム根形成に与える土壌リンの影響

*枡田元気(広大院・生物圏),和崎 淳(広大院・生物圏)

いくつかのカヤツリグサ科植物では、リン欠乏時に「ダウシフォーム根」と呼ばれる特殊な根を形成することが知られている。ダウシフォーム根は、その発達過程において初期に側根が膨らみ、成熟すると長い根毛が密生して房状になる。成熟したダウシフォーム根では、発達した根毛によって土壌との接触面積を増加させ、さらに有機酸や酸性ホスファターゼを盛んに分泌し、土壌中に吸着されている難利用性リン酸を可給化すると考えられている。本研究では、ダウシフォーム根の形成および発達と土壌リンとの関係を明らかにすることを目的とし、広島県瀬戸内地域の貧栄養土壌に生育するナキリスゲ(Carex lenta)と土壌を複数地点から採取した。そして、根の観察を行いダウシフォーム根の形成数と成熟・未成熟の割合を計測した。また、土壌リンの分画抽出実験を行い、根圏土壌と非根圏土壌において含まれるリン量をその形態毎に比較した。

その結果、土壌の可給態リン酸濃度が低い地点でより多くのダウシフォーム根の形成がみられた。また、ナキリスゲの根圏では、非根圏と比較して可溶性の有機態リン酸が減少し、可溶性の無機態リン酸が増加していた。これはナキリスゲの根圏で酸性ホスファターゼが関与し、可溶性の有機態リン酸が無機化されたことを示唆している。また、成熟したダウシフォーム根の割合が最も多かった個体の根圏土壌では、FeやAlのイオンと結合していると考えられる難溶性無機態リン酸が非根圏土壌に比べて減少しており、ダウシフォーム根による難利用性リンの可給化が示唆された。この地点の土壌は他の地点よりもリン酸の吸着能が低い土壌であった。以上の結果から、ナキリスゲは可給態リン酸の少ない土壌でダウシフォーム根を形成させ、リン吸着能の低い土壌においては、難利用性リン酸を可給化し利用することができると考えられた。


日本生態学会