| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-044 (Poster presentation)
リン欠乏条件下において、ヤマモガシ科植物の多くは試験管ブラシのような奇妙な形をした「クラスター根」を形成し、土壌中の難溶性リンを有効態リン酸へ可給化する有機酸と酸性ホスファターゼの分泌を促進している。さらに、植物体内においては老化した葉から若い葉へ吸収したリン酸の再転流を行って有効利用している。ヤマモガシ科植物は高いリン欠乏耐性を持つことが知られているが、日本に在来する唯一のヤマモガシ科植物であるヤマモガシ(Helicia cochinchinensis)においては、クラスター根形成の有無を含めて未だリン欠乏耐性は調査されていない。本実験は、広島大学大学院理学研究科宮島自然植物実験所の敷地内に生育するヤマモガシを対象にして、クラスター根を形成するかどうかを含めた栄養生態学的な調査を行うことを目的とした。
ヤマモガシの周辺土壌から典型的なクラスター根を発見し、DNAバーコーディングによりヤマモガシが形成したクラスター根であることを示した。ヤマモガシの生育土壌に含まれる可給態リンは2 mg-P/kg 程度と極めて低かった。クラスター根の根圏土壌では非根圏と比較して可給態リンが減少しており、クラスター根がリン吸収に寄与していることが示唆された。ヤマモガシとその周辺の樹木など8種の常緑広葉樹を対象に葉のリン濃度を測定したところ、ヤマモガシは他のヤマモガシ科植物と同様にリン濃度が老化葉・枯死葉で極めて低く、未成熟・成熟葉でリン濃度が比較的高かった。以上より、ヤマモガシは葉に含まれるリンを再転流する能力が一般的な植物より高いことが示唆された。