| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-047 (Poster presentation)

葉の被食被害に即応して誘導される光合成抑制現象 ~そのメカニズムと種間比較~

*白石 健司(北里大・理),坂田 剛(北里大・一般教育),中野 隆志(YIES),上村 章(森総研),宇都木 玄(森総研)

植物には、葉が激しく被食被害を受ける種と受けない種がある。被害を受けた葉で起こる光合成の応答反応の種間差とその機構を明らかにし、葉の被食防衛の生態学的な理解を目指して本研究を行った。

実験には、被食を受けやすい種としてミヤマハンノキ(富士山5合目)、ソメイヨシノ(神奈川県)、アジサイ(神奈川県)、被食を受けにくい種としてマテバシイ(神奈川県)を用いた。これらの葉にリーフパンチなどで傷をつけ、葉の光合成能力に変化が生じるか評価を行った。評価は葉の残存部全体の光合成能力として光飽和時の最大CO2利用効率(Li-6400)、葉の平面上での二次元的な光化学系Ⅱの量子収率の経時変化(Imaging Pam)を測定し行なった。

葉を傷つけても、いずれの種でも気孔の閉鎖は発生せず、マテバシイにおいてのみ顕著な光合成能力の低下(実験前の34%)と量子収率の低下が生じた。量子収率の低下する領域は、実験から数分以内に葉脈に沿って葉縁方向へと広がり、この現象はCO2を含まない63%O2大気下でも確認された。この光合成抑制現象は気孔及び葉肉部でのCO2拡散の阻害以外の理由で生じたと考えられた。

葉内の被食防衛物質の一つであるフェノール類の含量はマテバシイ9.3 g/m2、ソメイヨシノ2.5 g/m2、ミヤマハンノキ8.0 g/m2、アジサイ1.2 g/m2であり、葉を実際にハスモンヨトウの幼虫に与えたところ、フェノールを多く含む種においてハスモンヨトウの死亡率が顕著に高くなった。フェノールをはじめとする被食防衛物質と光合成抑制現象の間にどのような関係があるのか、そしてその生態学的意義について議論を行う。


日本生態学会