| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-055 (Poster presentation)

年輪の無い熱帯樹木の年輪同位体解析法の開発

*齋木拓郎,松尾奈緒子(三重大),高梨聡(森林総研),吉藤奈津子,小杉緑子 (京都大),中塚武(地球研)

樹木の年輪中にセルロースは葉の光合成産物を材料として作られるため,その炭素安定同位体比(δ13C)と酸素安定同位体比(δ18O)は光合成産物が作られた時の環境条件とそれに対する樹木の生理的応答を記録している.本研究では,気温等の季節変化が小さいために明確な年輪を持たない熱帯樹木について年輪同位体解析法を開発し,過去の環境変動に対する生理的応答を抽出することを目指す.そこで,過去約10年分の微気象条件と樹冠上のCO2・H2Oフラックスのデータが揃う半島マレーシア・パソ熱帯雨林に生育するフタバガキ2個体の円盤サンプル中のセルロース(以下,木部セルロース)のδ13Cとδ18Oを高解像度測定した.フラックスデータ等から群落の水利用効率と土壌水分量との関係や,蒸散によって上昇する葉内水のδ18Oへの降水のδ18Oと湿度の相対的寄与を算出し,それらの結果に基づいて1)葉の水利用効率を反映するδ13Cと土壌水分量の関係,2)木部セルロースのδ18Oに影響を及ぼす降水のδ18Oと相対湿度との関係,さらに3)放射性炭素同位体(14C)を用いた年代決定の3方法を併用して木部セルロースの年代決定を行った.その結果,土壌水分量の変動に支配される周期が抽出できた.こうして年代決定した木部セルロースのδ13Cは土壌水分量に対して負の相関を示した.本研究により,明確な年輪の無い熱帯樹木においても土壌水分量の低下に対する水利用効率の上昇という生理的応答の履歴を抽出することができた.さらに,樹種間で生理的応答に違いがあるのかを考察する.


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