| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-067 (Poster presentation)

標高の違いによるシモフリゴケの有性生殖の変化

*丸尾文乃(総研大・極域),伊村智(総研大,極地研)

蘚苔類は、変水性などの生理的特性を持つことに加え、胞子を用いた有性的な繁殖方法と、無性芽および葉や茎からの再生のような無性的に繁殖する機構を備えている。蘚苔類は、このような繁殖方法を活かし、多様な環境に分布できていると考えられる。本研究では、蘚苔類は一般の生育環境では有性生殖と無性生殖を同時に行い、生育の厳しい環境においては有性生殖は行うことができないが無性生殖のみで繁殖を行い生育しているという仮説を立て、これを検証するために、多様な環境を持つ富士山で広範な標高に分布するシモフリゴケを対象として、標高の異なる生育地ごとの有性生殖の状況を調べた。

富士山の標高2400m~3776mまでの範囲で標高100mごとにシモフリゴケを採取し、分枝生長と胞子体、造精器、造卵器などの有性生殖器官形成のパターンを明らかにした。シモフリゴケでは、造精器を形成する株を雄、造卵器を形成する株を雌と区別する。その結果、シモフリゴケは雌雄異株で、主茎は単軸生長し、一次枝は最大二年に渡って仮軸分枝することが確認された。胞子体形成は標高2400m地点では確認されるものの、それ以上の標高では全く見つからなかった。雄株は標高2400m地点のみで確認され、分枝を繰り返す一次枝上に複数の雄性花序を形成していた。雌株は標高2400、2600、3200mで確認され、分枝も雌性花序の形成数も雄株に比べて非常に少ないことが明らかとなった。標高2400mよりも高い標高のシモフリゴケ群落で胞子体形成が確認されないのは、雄株が分布しないか、もしくは雄株上に造精器が形成していないことが原因と考えられた。本研究よりシモフリゴケでは、標高が上がり厳しい環境になるにしたがい無性生殖のみで繁殖を行っているという仮説で予想された通りの結果が得られた。


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