| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-069 (Poster presentation)

オオバタネツケバナの潮汐/渓畔集団間の遺伝的分化

*曽我江里, 工藤洋(京都大・生態研)

新たな環境への適応は、種内集団間の分化や種形成を介して生物多様化に寄与している。これまで様々な環境の勾配に沿った生態的分化が報告されており、分子生態学の分野ではアブラナ科の植物を用いて、それらの環境への適応の、実証的研究が行われ、進化や適応の分子レベルでの理解が進んできている。

本研究は、植物の潮汐リズムで冠水する生育地への適応を、アブラナ科オオバタネツケバナ (Cardamine scutata) の野生集団を用いて実証的に理解することを目的としている。オオバタネツケバナには通常の渓畔とは大きく異なる環境に生育地をもつ集団が知られており、その1つがマルバタネツケバナとしても知られる木曽川の12.4時間の潮汐リズムで冠水する環境で生育する潮汐集団である。

本発表では、木曽川の2つの潮汐集団と付近の2つの渓畔集団を用いて、野外調査、並びに栽培実験を行った結果を報告する。通常のオオバタネツケバナの渓畔集団は複葉を形成しているのに対し、潮汐集団は単葉化していることが知られている(芹沢ら, 2002*)。葉の複雑度を潮汐集団と渓畔集団で比較し、潮汐集団は渓畔集団よりも有意に単純な形をしていることが分かった。次に、インキュベーター内での栽培実験を行い、潮汐集団の単葉化は遺伝的要因であることが明らかになった。野外実験と栽培実験において、単葉化以外の葉の生理学的・解剖学的比較を現在行っており、それらの遺伝的分化についても報告する。

今後、これらの結果を基に、遺伝学実験と次世代シーケンサーを用いたRAD-seqやRNA-seqを行い、オオバタネツケバナの潮汐リズムで冠水する生息地への適応を分子レベルで明らかにする予定である。


日本生態学会