| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-072 (Poster presentation)
一般に、栄養成長と繁殖は資源利用に関してトレードオフの関係にある。そのため生活史における繁殖スケジュールは、限られた資源の中で生涯の繁殖成功を最大化するために、それぞれの環境に応じて適応的に決定されている。生活史理論は、成長率が低く成体の死亡率が高い環境下の個体群では、環境条件の良い場所の同種の個体群に比べ、繁殖への資源分配が前倒しされていると予測する。しかしこれまで、植物における繁殖スケジュールの研究は主に草本で行われ、高木では八甲田山のオオシラビソで実証したSakai et al. (2003) などに限られている。また生態的特性の異なる他種との競争が、こうした生活史スケジュールの変更にどう影響するのか、樹木での検証例は見当らない。
青森県の岩木山と八甲田山は、ともに冷温帯ではブナがほぼ純林を形成するが、上部域では岩木山は偽高山帯となり高木限界までブナが優占するのに対し、八甲田山ではブナはオオシラビソと競合する。そこで本研究では岩木山の標高700、900、1100m、八甲田山の400、600、800、900mで調査を行い、標高傾度上でのブナの繁殖開始サイズの変化とそれへの競合種有無の影響を調べた。
繁殖は主に樹冠が林冠に到達した個体で見られた。岩木山ではブナの樹高の低下により林冠高が標高とともに低下し、これと連動して繁殖開始サイズが低下した。一方、八甲田山ではそうした低下は見られなかった。八甲田山のブナはオオシラビソとの競争により、繁殖への資源投資を犠牲にして伸長成長を行っているためと推測される。