| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-077 (Poster presentation)
日本特産の常緑針葉樹オオシラビソは本州中北部の亜高山帯林を構成する重要樹種である。本種に関する先行研究は、光環境条件への形態的な適応や林の立地環境についての研究など、数多く挙げられるが、冷温帯落葉広葉樹林における同種の生理生態学的研究の例は未だない。本研究では、冷温帯コナラ林に生育するオオシラビソ稚樹を対象として野外における光合成・呼吸速度を測定し、一年間の物質収支の季節変化を追った。
長野県北佐久郡軽井沢町の浅間山麓の南に位置するコナラを優占種とした落葉広葉樹林を調査地として研究を行った。本研究では2012年4月、林床に方形プロットを設けその中に生育する稚樹を対象として2012年4月から2013年11月までの間、毎月一度測定及び試料採取を行った。測定項目は稚樹の成長量、光環境、光合成・呼吸速度である。得られたデータから光―光合成曲線と温度―呼吸曲線を作成して実測した気象データを基に各月の総生産量・呼吸量を推定し、年間の純生産量を求めた。
総生産量は5月が年間で最も高く、次いで4月に高い値を示した。12~2月は著しく値が小さくなり、2月の総生産量は光合成速度の値が著しく小さかったためほぼ0の値を示した。一方、呼吸量は5月が最も高く、次いで7月と8 月が同程度に高い値を示した。最後に、総生産量と呼吸量の値を用いて純生産量を推定すると、それらの値は1月、3月~5月と10月、11月が正の値を示し、12月と2月、6月~9月は負の値を示した。総生産量が春季に著しく高い理由は、その時期に稚樹が受ける光強度が最も強く、加えてその量が多かったためと考えられる。また呼吸量に関しては林床における月の最高気温の強い影響が示唆された。結果、年間の物質収支は呼吸量が総生産量を上回り、純生産量は負の値をとった。