| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-081 (Poster presentation)
イネ科ドクムギ属(Lolium)は、日本には5種が帰化する。そのうちネズミムギ(L. multiflorum)、ホソムギ(L. perenne)、ボウムギ(L. rigidum)は日本国内に広く分布する。ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどに生育するこれら3種を扱った文献では、いずれも自家不和合で容易に雑種を形成するとされることが多い。しかし、日本のボウムギはおもに海岸に生育し、小穂が苞頴に包まれた自殖的な形態をもつため、他の2種とは繁殖特性が異なる可能性がある。
そこで本研究では、日本各地の海岸に生育するドクムギ属の繁殖特性と遺伝構造を明らかにするため、袋掛け処理下での結実率の調査、マイクロサテライトマーカーおよび葉緑体DNAにもとづく遺伝解析を行った。その結果、ボウムギの形態をもつ自殖タイプおよびネズミムギとホソムギの中間的な形態をもつ他殖タイプの2タイプのドクムギ属が生育していることが明らかとなった。両タイプは同所的に生育している場所もあるが、互いに遺伝的に分化していた。自殖タイプは単系統群から構成され、日本各地で多型が少なく集団間の遺伝的な分化がほとんど見られなかったのに対し、他殖タイプは遺伝的多様性が高く、ネズミムギに近縁な系統とボウムギに近縁な複数の系統を含んでいた。自殖タイプでは、その遺伝的多様性の低さから、他種との交雑はほとんど起こっていないと考えられる。一方、他殖タイプは遺伝的に多様で、複数系統に分かれることから複数の由来を持っている可能性が高い。同一環境に生育する同属の帰化植物2タイプは、対照的な繁殖特性と遺伝構造をもっていた。こうした差異は、起源や侵入、定着の経緯が2タイプ間で異なる可能性を示唆する。