| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-142 (Poster presentation)
樹木の生活史において、種子から実生の定着に至るまでの初期段階は特に死亡率が高く、成木の分布や種の多様性を決定する時期であるため、実生群集の動態を解明することは重要である。全国的に拡大・分散しているナラ枯れは、亜林冠層以下の上層木の成長や林床環境の変化などを通じて実生群集動態に影響を与えると考えられるが、ナラ枯れ後の実生更新に関する研究例は少ない。そこで本研究ではナラ枯れの進行する二次林において、実生群集の動態と実生定着を制限する要因を解明することで、ナラ枯れ後の実生更新の可能性を検討した。
愛知県瀬戸市に位置する二次林内の3つのプロットに4m2実生コドラートを各16個設置し、2010年5月~2013年11月にかけて木本実生調査を行った。各プロット内のナラ類の枯損状況を2008、2010、2013年の各年に行われた毎木調査より評価し、また、2010年~2013年の各着葉期において、各コドラートにおける林床の光量を計測した。非計量多次元尺度構成法を用いて、当年生実生群集のプロット間、観測年間での種組成の類似性を明らかにした。また、一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて、光環境などが主要樹種の実生定着に与える影響を解析した。
GLMMの結果、光環境がいくつかの種の実生定着に影響を与えていた。一方で、林床の光環境に改善が認められたのは、落葉樹が上層を優占する1つのプロットに限られ、常緑樹が優占するプロットでは、林冠木が枯死しただけでは林床の光環境は変化しにくいことが示唆された。2010年~2013年にかけて、全てのプロットで当年生実生群集の出現密度が大幅に増加したものの、常緑樹主体の林分においては、今後枯損木の倒伏に伴うギャップの拡大がない限り、特に耐陰性の低い樹種では実生の残存・定着は難しく、実生による更新はほとんど期待できないと考えられた。