| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-006 (Poster presentation)
2011年に起こった原発事故によってその周辺地域に生息する野生動物は定常的に放射能による被ばくを受けている。放射線の照射実験によって生物のDNAが損傷することが知られているが、今回の事故による野生動物のDNAへの影響はわかっていない。また、動物は主に食物摂取による内部被ばくの影響を受けると考えられているが、複雑な食物網をもつ野生動物への放射性物質の移行経路は不明である。そこで、本研究では、長期の放射線被ばくが野生動物のDNAの損傷に及ぼす影響と放射性物質の移行経路を解明することを目的とした。
【方法】(実験1)福島原発からより遠い地域を低線量地域、原発により近い地域を高線量地域とした。DNAの損傷程度を比較するためコメット法を用い、イノシシでは各個体の肝臓・小腸・腎臓・膀胱について、ミミズでは各個体について核の長径短径の比を測定した。(実験2)放射性物質の移行経路を明らかにするため、イノシシとミミズを含む食物網パスモデルを構築した。イノシシが捕獲された福島県内の計20カ所において胃内容物から確認された植物の茎葉、根、リター、土壌、果実、ミミズを採取した。その後各サンプルの放射線量を測定し、それらの結果をもとにパス解析を行った。
【結果】(実験1)イノシシでは、場所間においてAR値に有意差は見られなかった。ミミズでは、低線量地域よりも高線量地域においてAR値が有意に大きかった。(実験2)対象物の中で土壌、リター、ミミズ、根の放射線量が比較的高かった。イノシシの放射線量は果実、ミミズとそれぞれ正の関係があり、茎葉とは負の関係が見られた。ミミズの放射線量は土壌、リターとそれぞれ正の関係が見られた。高線量地域のミミズのDNA損傷が大きかったのは、その生息圏である土中の放射線量が高かったためと考えられる。