| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-034 (Poster presentation)

安定同位体食性分析におけるイオウ安定同位体の利用 ―ヒグマ(Ursus Arctos)の例―

*松林順(京大・生態研),陀安一郎(京大・生態研)

安定同位体を用いた生物の食性分析は、人類学、生態学、考古学など様々な分野で有用なツールとして使用されている。安定同位体食性分析では、炭素(C)・窒素(N)2種の安定同位体比を用いた分析が最も頻繁に利用されている。炭素安定同位体比は生物が利用した食物源の情報(C3植物とC4植物など)を反映し、窒素安定同位体比は生物が利用した食物の栄養段階を反映するため、これらの同位体比を調べることで多くの食物資源の寄与率を推定することが可能である。

しかし、対象とする動物種によってはCN同位体比のみでは結果の解釈が難しい場合が存在する。例えばヒトやクマなどの雑食動物では、陸域の動植物に加えて海域の資源も利用するため、しばしば食物資源の数が4種類以上となる。このような状況では、対象生物のδ値を説明する食物資源の組み合わせに互換性が生じてしまい、解釈が不能になる場合が多い(Mixing Problem)。しかしながら、この問題はほとんどの研究において認識されていないため、最終的な解釈が不正確になっている可能性がある。

例示したような状況において、Mixing Problemを解決する手段として、イオウ安定同位体の利用が挙げられる。イオウ安定同位体比は、陸域の生物では0 - 10 ‰であるのに対して、海域では20 ‰前後と非常に高い値を示し、栄養段階ごとの濃縮はほとんど起こらない。従って、炭素・窒素に加えてイオウの同位体比を食性分析に使用することで、より正確な食性分析が可能となる。本研究では北海道の知床半島のヒグマを対象に炭素・窒素・イオウ安定同位体を用いた食性分析を行い、Mixingモデルを用いて各食物資源の利用割合の分布を炭素・窒素のみの場合と比較した。発表では、イオウ同位体比の食性分析での有用性および使用に際しての問題点について考察する。


日本生態学会