| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-094 (Poster presentation)

日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場におけるオオムラサキ(Sasakia charonda)育成業務

*坂本有加,*宗兼明香((株)環境総合研究所)

東京都西多摩郡日の出町の谷戸沢廃棄物広域処分場(以下、処分場)は、一般廃棄物の最終処分場として機能した後、里山的環境を再生させる取り組みを行ってきた。再生の状況は、動植物を対象とした生態モニタリング調査により確認している。本業務で対象とする国蝶オオムラサキ(Sasakia charonda)は、生息環境の変化で数が減少し、環境省レッドリストで準絶滅危惧種に選定されている。本種の生息は処分場建設以前に確認されていた。埋立期間中は成虫を確認できなかったが、埋立終了後に再び確認されたことから、本種を、代償植生を代表する里山的環境再生のシンボルと位置づけ、保護育成活動を行っている。

処分場内で越冬幼虫を回収し、埋立地内に設置したオオムラサキ専用のケージ内で育成することで、幼虫を鳥やハチなどの捕食者から保護した。羽化後は成虫を放蝶することにより、野外の生息数の増加に努めた。平成25年度は育成した411個体の幼虫のうち、237個体が羽化した。ケージ内で育成することにより実物を観察しやすくなり、地域住民や処分場の見学会参加者に本種を紹介する機会が得られた。また小学生が成虫を野外に放つ「放蝶会」を行うことで、本種を通して処分場を身近に考えるきっかけができ、環境学習の場として処分場が有効利用されている。

今後は絶滅危惧種である本種の保護に取り組むと同時に、育成を通して得られた知見を集積していくことが重要と考える。それらを羽化個体数の増加に活かし、さらに、本種の安定した生息環境を造り維持していくことが里山的環境の再生につながると考える。また集積された知見を来場者に紹介していくことは、保護活動の啓発と処分場の理解を深めることにつながると考える。処分場の管理者にとっても、自然再生が進行する処分場をPRする材料として、本種は有効だと考える。


日本生態学会