| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-103 (Poster presentation)
各地域で開催されている自然観察会や水辺での学校の授業は,単に普及教育の場としての機能を果たすだけではなく,たくさんの眼による観察,採集が可能な機会でもある.本報告では,滋賀県内の小学校における授業を通じた自然史情報の蓄積の事例を紹介し,授業のもつ調査・研究としてのポテンシャルについて検討した.
滋賀県の東部,犬上郡多賀町にある2つの小学校では,それぞれ4年生が総合的な学習の時間の一環として毎年6~7月に町内の河川において「川の生き物調査」を実施してきた.授業では学芸員による採集方法の指導ののち,タモ網を用いて魚類や水生昆虫などを採集し,その後,種の記録や観察を行なった.詳細な同定や個体数は学芸員が追加で記録し,一部の個体については標本として博物館に保管している.
授業で採集された魚類の種数は,演者が現在行なっている河川魚類相の情報と同等かそれ以上のものであった.そのため,定性的な情報としてはこのような授業で得られる情報も調査研究において活用できるレベルであると考えられた.なお,年度ごとの児童数の違いやタモ網を用いた採集であったことから,定量的な情報については十分な情報を得ることは難しかった.
また,この授業を継続的に実施していくことで年度ごとの魚類相の比較も可能となってきた.そのため,川の生き物調査は,単に授業にとどまらず,その地域の河川魚類相モニタリングとして機能するようになってきた.これらの成果は現在,土木行政の資料としても活用されている.このように毎年小学4年生が行なう授業を「調査」と位置づけ定期的に実践することと,正確な同定を行ない,その情報を保管することができる博物館との連携によって,授業の成果を様々な場所で活用できると考えられた.これらは,単に教育普及という目的で研究者が関わるだけではなく,調査・研究という要素も含めた参画を可能にする一つの事例ともいえる.