| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-110 (Poster presentation)
栄養吸収器官である樹木細根に対する炭素投資は,資源となる土壌栄養塩プールの大きさや,樹木の栄養塩要求度と密接に関係していると考えられる。本研究では,マレーシア・キナバル山の熱帯降雨林において,標高・地質の変化による環境勾配と樹木細根の生産速度の関係を明らかにし,気温や土壌栄養塩資源量の変化に対する樹木細根の動態を解析した。
キナバル山に設置された,4標高(700,1700,2700,3100m)と2地質(蛇紋岩と堆積岩)の原生林8プロットで調査を行った。各プロットで土壌コアを採取し(n=10)、細根(<2mm)現存量を測定するとともに,ルートメッシュ法により細根生産速度を1年間測定した(n=10)。各プロットで得られた細根データを目的変数,気温と土壌中の無機態窒素および可給態リン現存量を説明変数として,重回帰分析を行った。また,細根の栄養塩濃度を分析し,細根生産における栄養塩利用効率(炭素濃度/栄養塩濃度)と土壌栄養塩現存量との関係を解析した。
細根現存量,生産速度および回転率の重回帰モデルでは,気温と土壌栄養現存量が説明変数として選択されたが,栄養元素ごとに影響の方向(正か負か)は異なった。土壌無機態窒素現存量の減少によって細根の現存量と生産速度は低下する一方で,土壌可給態リン現存量の減少により,細根生産速度は低下するが現存根長や細根の寿命は増大する傾向が示唆された。次に,全プロットを通した細根の栄養利用効率と土壌栄養塩現存量の相関関係を,窒素とリンで比較したところ,リン利用効率の方が窒素よりも高い相関係数を示した。このことから,細根に対する炭素投資量は気温と土壌栄養量に影響を受けるが,樹木群集は細根生産においてリンを効率的に利用するために,炭素に対するリン投資の比率を調整することが示された。