| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-115 (Poster presentation)
IPCC第五次評価報告書によると、気候変動に伴う気温の上昇は高緯度域や高標高域で大きい。日本では山岳地域に集中的に分布する森林生態系の機能は、地球環境調節と生態系サービス源を担うため、気候変動がこれらの基盤的プロセスである炭素循環にもたらす影響の評価・予測は生態学の課題としても重要である。この評価・予測のためには、地域気候モデルと生理生態学プロセスに基づく陸域生態系モデルの結合が有用である。本研究では、まず中部山岳域を対象として地域気候モデル(WRF: Weather Research and Forecasting)を用いた力学的ダウンスケーリングにより、水平分解能3.3 kmの気象値を現在(2006-2012年)と将来(2080年代頃)について計算した。次に、長期複合的な炭素循環観測拠点「高山サイト(TKY)」を対象として、気象計算値を陸域生態系モデル(VISIT: Vegetation Integrated SImulator for Trace gases)に入力し、炭素収支の将来変動予測を行った。この結果、TKYにおける将来の気温は、現在に比べて2-3℃上昇すると予測され、林冠木(ミズナラ・ダケカンバ)の展葉が約2週間早まり落葉が約1週間遅くなると予測された。これにより、現在よりもGPPが7.4 Mg C ha-1 y-1増加すると予測された。一方、生態系呼吸量も3.7 Mg C ha-1 y-1増加すると予測されたため、生態系純生産量としては3.7 Mg C ha-1 y-1増加すると予測された。複雑地形を有する流域規模の炭素収支を将来予測する上で、この手法は有効と考えられ、今後は炭素収支の広域的な将来予測への応用が期待される。