| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-119 (Poster presentation)
メコン川流域では多くのダム建設が計画されており、新たに生じたダム貯水池では水産資源の創出という生態系サービスをもたらすことが期待される一方で、有害藻類の発生といったリスクも懸念される。これらのサービスやリスクを適切に評価していくには、湖沼の生産性を支えている栄養塩類、特にリンの湖沼生態系への供給や循環を適切に評価していくことが重要である。
本研究では、メコン川流域に建設されたダム貯水池における栄養塩の循環と生産性の関係を明らかにすることを目的として調査を行っている。本報告では底泥中のリンの存在量、無機化機能と水質との関係について報告する。
【調査地・方法】タイおよびラオスの5カ所のダム貯水池において、2012-13年にかけて複数回の調査を行い、各回、それぞれの貯水池の湖心(最深部)および湖岸(各貯水池5‐8カ所)の底泥表層(3㎝)を採取し、成分および分解機能を測定した。分解機能は酵素活性を指標としてセルロース分解酵素(GLU)およびリン無機化酵素(PA)活性を測定した。
【結果】1) 底泥の全リン含量(TP)は湖岸よりも湖心の方が高く、TPに占める無機態リンの割合が湖岸よりも湖心の方が高い傾向にあった。2) 湖水中のTPは底泥中のそれとは逆に、湖心よりも湖岸の方が高い傾向にあった。3)底泥のPA活性は湖心では湖岸より低い傾向にあり、湖心底泥のPA活性は底泥のTP/TN比と負の相関があった。
これらの結果は、ダム貯水池では周辺の後背地から供給される有機態のリンが湖岸部で無機化され湖水中に回帰し、生物生産を経て湖心部に蓄積してくること、底泥中のリンの無機化には有機物量やTN含量などの環境要因が関係してくるという考えを支持するものである。