| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-131 (Poster presentation)
【はじめに】海洋島である小笠原諸島では、かつては肉食哺乳類が不在であったため海鳥が繁殖し、それによって窒素やリンなどの栄養元素が海洋生態系から陸域生態系へと流入していたと考えられる。窒素やリンは、その化学形態によって植物による利用のしやすさや土壌中での挙動が異なる。また、海鳥が持ち込む窒素やリンの化学形態は、海鳥の種類や生息環境によっても異なる可能性がある。本研究では、小笠原諸島における代表的な海鳥であるカツオドリとオナガミズナギドリの排泄物中に含まれる窒素とリンについて、その含量および化学形態を調査した。
【材料】海鳥の排泄物は、小笠原諸島・母島列島の属島である南島あるいは南鳥島において、各種について3か所ずつから採取した。
【結果】オナガミズナギドリの排泄物(n=3)における窒素含量は28~32%、炭素含量は32~35%であったのに対し、カツオドリの排泄物(n=3)では窒素含量が1~4%、炭素含量が10~13%といずれも著しく低かった。これら排泄物の固体13C-NMRスペクトルを測定した結果、オナガミズナギドリの排泄物中では尿酸あるいはその誘導体が主成分であるのに対し、カツオドリでは尿酸含量は非常に低く、脂肪族炭化水素や糖鎖由来成分が主成分であると考えられた。一方、酸処理後にアルカリで抽出されるリンの量は、オナガミズナギドリよりもカツオドリで著しく高かった。これら抽出液の液体31P-NMRスペクトルを測定した結果、これらのリンはいずれも大部分がオルトリン酸であり、植物は比較的速やかに利用可能な化学形態であることがわかった。以上の結果から、海洋生態系から陸域生態系に持ち込まれる窒素やリンの量や化学形態は、海鳥の種類によって大きく異なることが明らかとなった。